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新BizLabo通信第29号:経営デザインシートに関する一考察(11)事業承継と経営デザインシート

 事業承継の論点は大きく分けて、後継者教育などを進めながら経営権を引き継ぐ(1)「人(経営)」の承継、自社株式・事業用資産、 債権や債務など(2)「資産」の承継、経営理念や取引先との人脈、技術・技能といった(3)「知的資産」の承継に整理されます(中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル」より)。

 

また、(1)人(経営)の承継は「経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育」、(2)資産の承継は「株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金、借入金等) 、許認可」、(3)知的資産の承継は「経営理念」「経営者の信用」「取引先との人脈」「従業員の技術・ノウハウ」「顧客情報」と書かれています。

 

事業を承継するには、株価対策だったり、借入金の引き継ぎだったり、事業用資産などが複数名義だったり、一部の資産が個人名義だったり、権利関係がごちゃごちゃしていたり、個人資産の相続対策だったり、後継者を誰にしようかとか、他の会社に引き継いでもらおうかとか、廃業も視野に入れようかとか、いろいろな課題を一つ一つクリアしていかないといけないのですが、どれも重要な課題ですので何から手をつけたらいいかわからないという経営者の方は多いのではないかと思います。

 

でも、そもそも「事業」承継なんです。

 

事業の将来の方向性が決まれば実現に向けた課題が整理できますので、これらを一つ一つ実現するためにその他の承継をどうするか、優先順位や最善策などを検討していけばよいのです。要するに、まず最初にブレない軸を一本決めること。その軸が「事業」の承継。その際、事業(会社)の将来について後継者(予定者・候補者)と何度も対話を重ねることが一番大切ではないでしょうか。

 

経営デザインシートは、左側のビジネスモデル(B欄)に現経営者の価値創造メカニズム(ビジネスモデル)、右側のビジネスモデル(C欄)が後継(予定)者がデザインする価値創造メカニズム(ビジネスモデル)を描くことで、事業承継の際の対話ツールとして活用できます。

 

つまり、後継(予定)者に(C)欄をいっぱい描いてもらいながら、適宜(B)欄をガッチャンコして必要なパーツ(知的資産等)を(C)欄に承継したり追加したりする感じで全体をデザインしていく。

 

(B)欄を描く際には精緻な現状分析に時間をかけるのではなく(C)欄を素早く数多くデザインすること、 (C)欄を描く際には(B)欄の価値創造メカニズムに引っ張られないようにいったんリセットして未来の自社をイメージながらバックキャストして描くことがポイントです。

 

このとき、よりイノベーティブな将来ビジネスモデルを描くには、先に(C)欄を描いてから(B)欄の現在の使える資源(リソース)を探す、というアプローチがお勧めです。

現在の使える資源(リソース)、要するに現在強みと認識している資源は、近い将来も強みになるとは限りません。また、上述のように(B)欄に引っ張られて改善レベル、あるいは現在のビジネスモデルの延長線上の将来像は描けてもポンと飛べるイノベーティブなビジネスモデルはかなり描きにくくなります。なので、いったんリセット(←重要)して(C)欄を描き、新たな関数f(x)をデザインしていくわけです。

 

(B)欄と(C)欄は一見無関係なビジネスに見えるものがあっても、これらの関係性を創る(将来のY=f(x)をデザインする)ことで新たな(イノベーティブな)ビジネスモデルがデザインできる可能性も出てきます。

そう、以前このブログで書いたアブダクションですね。

 

演繹的・帰納的アプローチでは、せっかく描いた将来のビジネスモデルがありきたりで予測可能なビジネスモデルになりがちで、せっかく経営デザインシートを使っているのに結局コモディティ化したままのビジネスモデルとなってレッドオーシャンから抜け出せない残念な状態が続く可能性がでてきます。

 

要するに(C)欄を描く際、持続的イノベーションでいくか破壊的イノベーションでいくか、です

 

このようにして将来のビジネスモデル候補のビッグピクチャーを数多くデザインし、自社にとって最も進んでいくべき将来のビジネスモデルを選択します。

また、せっかくいっぱい創ったビジネスモデルは承継が一段落したら終わりではなく、今後のためにストックして適宜ブラッシュアップしたり、これらをネタにして新たなビジネスモデルを継続的に創り続けていくことも大事です。

 

事業承継に限らないことなのですが、このように会社が事業を継続していくためには、環境の変化に対応して既存の資産、資源、知識などを再構成し、相互に組み合わせて、時には他企業の資産や知識も巻き込んでオーケストラのごとく持続的な競争優位をつくり上げる能力、すなわちダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)が必要なのです。

 

事業承継は、持続と破壊のイノベーション